十文字川の戦い(中編)
戦妻
「ドスドスッ!」
ブシューという音を立てて、血が戦場の空を舞い上がる。血の雨だ。十文字川も、血の朱に染まっている。
「はっ、この程度か!?もっと骨のある奴らだと思ったんだがな!」
ソルジャーが勝ち誇ったように言った。敵兵は、むっ、と怒る様子も無い。否定できないのだ。
「親父、第四陣の近くで戦いが起こってるとさ。行ってみたらどうだ?」
セイドが傍にいる。もちろん、チェリーも。ギフトとアイリーンが突撃していて、セイド達は前面にいるにはいるのだが、突撃はしてない。
「ああ、行く。戦っている奴の特徴は?」
やはり、やる気マンマンだ。戦になると、こうなる性格なのだ。
「特徴?確か、青い・・・私と同じような色をした髪と、薙刀を持っているのが特徴だな。それ以外は聞いてない。」
セイドも、伝令経由で聞いたことなので、詳しくは分からない。
「セイドの髪に薙刀・・・?・・・!あいつか。」
ソルジャーは確信したように言った。なにが分かったのか、セイドもチェリーも分からない。
ソルジャーは走っていった。急いでいるのか、戦場だからかは分からないが。
ソルジャーは薙刀を振り回しながら走っていた。敵兵は恐れて、近づこうとしない。
しばらく走って、戦いが見えてきた。
「やっとか。相変わらず、無茶をする。」
懐かしみながら言った。
向こうから悲鳴がよく聞こえる。よくというのは、『はっきり』の意味ではなく、『多く』の意味を持たせて、解釈して欲しい。
「邪魔だ!どけ!」
声だけでも恐ろしい。それに薙刀を振り回していると来たら、恐怖で足が震える。敵兵は、知らず知らずの内に退いていた自分に気づいた。かと言って、戦うわけにはいかない。
「ソロー、もう退け。一人ではつらいぞ。」
ソルジャーは『ソロー』と呼ばれた女性に言った。
「ソルジャー、なんでこんな所にいるの?」
「お前こそ。今まで何をしていた?」
「もちろん、仇を討つのに明け暮れていたわ。そのためにここで戦っているんじゃない。」
「仇がここにいるのか?」
「ええ。フィリップ・プロット、忘れはしない。一族の仇がこの十文字川に・・・。」
「・・・敵討ちはやらせるが、無理はするな。お前の姉が悲しむぞ。」
「姉さんは大丈夫よ。私よりも丈夫にできてるから。」
「たった一人の家族なのにか?」
「私にはあなたがいるじゃない。あなたはいつも、夫の座から降りようとしてる。」
「だが、セイドの父の座からは降りたくはないな。」
ソルジャーとソロー、一応、夫婦だ。だが、こんな戦場で呑気に話していられるのは、おかしなものだ。
「へえ、アーミィは?」
「あいつは・・・捨てたろう?今は、俺のすぐ近くにいる。」
「捨てたはずなのに?」
「あいつは国王になっている。王宮で育って、子の出来ない王が養子にもらってから、可愛がったらしい。それで、遺言にアーミィを国王にしろと言ったらしいな。」
「アーミィが・・・ねえ。で、あなたはなんでここにいるの?」
「軍に入った。セイドも一緒だ。」
「軍に?・・・あのたくましいセイドが入ったのなら、大丈夫ね。じゃ、私も軍に入れてもらおうかな?」
女性が、そんな気楽に言うことではないのだが・・・。
「ま、活躍すれば入れてもらえるだろう。さあ、行くぞ!」
「私はプロットを殺すから、雑魚兵は任せたわ。」
平然と殺すとか言っている。
「おうよ!」
「さて、・・・プロット!一族の仇!貴様を討たない限り、私のこの深い憎悪は消えない!」
そう叫んで、突っ込んだ。プロットは馬に乗っているので、素早く退いた。兵を残して、自分だけ、本当に退いた。ホーリーまで。その背中は情けない。
「待て!それでも男か!?自分の行為に恥を知れ!」
叫んでも、プロットは戻ってこない。ソローは腹を立てながら、兵を斬ってうさ晴らししていた。ソルジャーも暴れている。・・・何とも恐ろしい夫婦だ。
・・・フレイムはいらだっていた。マッチの策がいっこうに通じない。プロットも退き、ゼロスはまだ来ない・・・。このままでは敗北は確実なものとなってしまう。
「出陣するぞ!第二陣の救援に向かう!」
フレイム自慢の騎馬隊が出陣するのだ。兵の士気も高まる。
歩兵部隊も駆けつけ、出陣する兵は増えた。これで攻撃すれば、多少の打撃を与えられる。
「行くぞ!セイクレッド軍を殲滅せよ!」
そう言うと、兵は走り始めた。馬も走り、蹄の音を悲しく鳴らす。
第二陣は既に落ち、本陣である第四陣に向け、セイクレッド軍は進軍していた。
本陣
「ドドドドド」
と、兵の走る足音が聞こえる。本陣へ向かっているのだ。
騎馬隊が来ている。だが、ソルジャーとソローには、恐れるものなど無かった。たった二人で突撃している。
「はっ。この程度で、勝てると思っているのか?」
そうは思っていないだろう。ただの時間稼ぎにしか過ぎないのだから。
「少しでも、時間稼ぎになれば・・・やるぞ・・・お前ら、死ぬな!」
フレイムが命令した。ゼロス軍が来れば、勝利は確実。
血の雨は降っていない。ソルジャー、ソローが苦戦しているのだ。
本隊は第四陣を攻撃している。
「・・・旗色が悪いか・・・ゼロス将軍、なぜこうも遅いのだ・・・。」
マッチが切り裂かれる兵を見て、ポツリと、独り言のように言った。
セイクレッド軍は強い。このままいけば、負ける。ただ、それだけだ。
しばらくし、第四陣は落ちた・・・。本陣の落ちたイモータル軍は、第三陣を頼って退いた。
セイクレッド軍は第三陣へ、イモータル軍を追い詰めたと言うのは事実。この勢いに乗って、第三陣を攻撃しようとすると、ゼロス軍が来た。
セイクレッド軍は、ゼロス軍となんとかやりあった。その隙に、フレイム等、イモータル兵が第四陣をまたがって、ゼロス軍と合流した。
ソルジャーはゼロスのもとへ、薙刀を振りながら走った。
「兄貴!」
ソルジャーが兄貴と呼ぶ理由は不明だ。
「ソルジャーか。久しいな。」
ゼロスは鎧のような仮面をしている。全身、鎧で固められているので、これが、馬にまたがり戦場を軽やかに走るとは思えない。しかし、事実だ。
「兄貴、なんでイモータルの将軍なんかになったんだ?セイクレッドの将になれば、俺も一緒に戦えたのに。」
「ソルジャー、私はただ、お前と同じ家に生まれただけだ。セイクレッドに手を貸すなんて、私には出来ないしな。」
「!ちっ・・・その変な根性を叩き直してやる!」
と叫び、薙刀を振りつけた。ゼロスは右手に持っていた槍で、いとも簡単に防いだ。
「ソルジャー、いいか、お前の動きなど、兄である私が見抜けないとでも思ったか?」
「確かにそうだな。だが、俺にはこれしかないからな。」
そう言って、薙刀を一突き。ゼロスの鎧は貫けなかった。槍でポンと頭を叩かれる。
「ソルジャー、この時点でお前の負けだ。いい加減にしろ。・・・次は首を刎ねる。」
「そうはいくか。俺は兄貴を退かせるまで、満足できねぇ。」
「もう、充分やりあった。早く満足しろ。」
ゼロスは呆れている。ソルジャーとは、子供のときからそこらの棒切れを使って、チャンバラをして遊んだ。今はその遊びが戦の役に立っているが・・・。ゼロスはソルジャーの分かり易すぎる攻撃パターンは、完全に把握していた。子供の頃のものが基本になってしまっているのだ。
「まだまだ、満足なんて出来るか!」
薙刀を振る。ゼロスはさっきから片手しか使っていないのに、ソルジャーを圧倒していた。
セイドが来た。チェリーは後方にいる。
「親父、なにを苦戦している!」
「セイドか!よく来てくれた。こいつが俺の兄、ゼロスだ!」
苦戦しているにもかかわらず、紹介している。ゼロスも槍は振っていない。
「!ゼロスか・・・もう戦うなんてな。」
セイドはためらうことなく、ソルジャーのもとへ走った。
「お前がクルーセイドか。ソルジャーの育てただけはある。なかなかたくましいな。」
セイドは別に筋肉もりもりというわけではない。たくましいというのは、体つきがいいということと、勇気があるということだ。だ。
「それはどうも。・・・では、やろうか。」
セイドは言うと、剣でゼロスを突いた。が、全く効いていない。
「いくらたくましくても、私を倒せるかどうか・・・。」
ゼロスは槍を振ることも無く、戦うことをやめたようだ。
「ではな。フレイムとマッチ、そして、我が子を助けるために、探しに行かねば。」
そう言うと、ゼロスは馬を走らせた。ソルジャーとセイドはその強さに圧倒されていた。
しばらく、雑魚兵と戦っていると
「全員退け!無事、フレイム将軍とマッチ参謀は助けた!もう用はない!退け!」
ゼロスの声だ。用はないということは、助けることだけが当初からの目的だったのだ。
イモータル軍はホーリーへ退いた。多くの死体を残して・・・。